月の記録 第52話


ルルーシュが死ねば、フレイヤの光が世界を覆う。
それは、暗殺から自分の身を守るための嘘かもしれない。
だが、その真偽を確かめる術はなく、偽りだと判断しルルーシュの命を奪った場合、万が一真実だった場合は、世界が滅びる。
ルルーシュは一人、安全な場所にいるわけではなく、各国のトップ達と同じ部屋にいるのだが、目の前に悪の根源がるというのに、誰も手を出す事は出来なかった。
各国代表は開放されること無く、その後もルルーシュと共にこの艦の中での生活を余儀なくされた。物資などはルルーシュの息のかかった者たちが、補給艦に乗り定期的に運んでいたが、それらに手を出すこともできなかった。燃料切れ、食料切れに追い込むこともできないのだ。

凶悪な兵器の力で皇帝となったルルーシュの政策は、非人道的なものが多く、地位のある者はその全てを失い、多くの民が路頭に迷った。
それでも意見を言う事も、拒絶することもできず、すべてを受け入れるほかないため、治安も秩序も崩壊し、時間と共にすべてが悪化していった。
ルルーシュは才能のある皇族はそのまま残し、無能な皇族達は全員皇位を剥奪し、野に放った。残されたのは皇妃はマリアンヌのみ。兄妹はシュナイゼル、コーネリア、ナナリーの3人だけ。
貴族制度も廃止され、その財産の大半を奪った。
それでも、元皇族達を養える最低限の土地と財産は残されたため、元貴族たちは元皇族たちを連れペンドラゴンを離れた。離れるしかなかった。ルルーシュは、自分に逆らう者たちを見せしめにと処刑していったため、いつ火の粉をかぶるか解らないという判断から、田舎の方へと逃げた。財産を残したのは、不穏な動きをすれば更に扱いが悪くなるということを示し、元皇族を守ろうとする者たちを抑え込むためだろう。

残された皇族4人は、解任された元ラウンズや親衛隊たちを集めた。
ルルーシュが死ねば世界が滅びる。
つまり、ルルーシュが病死、事故死、あるいは老衰で死んでも世界は滅んでしまうのだ。ルルーシュの死と共に、全てが終わってしまう。人の寿命などせいぜい100年。この世界は長くても80年ほどで消えてしまう。それをただ見ているという選択肢はマリアンヌたちにはない。
時がたてば、それに伴い戦力は衰えていく。
だから、フレイヤを無力化し、ルルーシュを討ち、世界を救うならば出来るだけ早くにクーデターを起こす必要がある。マリアンヌたちのこの動きは当然ルルーシュも知っているが、やれるものならやってみろと笑いながら放置していた。
ラウンズを解任された騎士たちをアリエスに集めたマリアンヌは、フレイヤの無力化と、ルルーシュを討つことを全員に告げた。今は不可能でも、必ず世界を、ブリタニアをルルーシュの手から救い出すと宣言したのだ。 ルルーシュを討つ、それはルルーシュを殺すという事だ。
マリアンヌの発言に、元ルルーシュの専任騎士であったスザクは声を荒げた。

「こんな・・・こんな事。ルルーシュ殿下の本意ではありません!自分が殿下と話をしてきます!」
「待ちなさいスザク君。元ラウンズは全員謁見出来ない事を忘れたの?」

忘れてなどいない。
だが、このままではルルーシュは殺されてしまう。自分が守りたかった存在が、殺されてしまうのを目の当たりにし、黙ってなどいられない。

「殿下は、本当は心優しい方です!この世界征服には理由が」
「どんな理由であれ、許される事では無い」

スザクの言葉を、ビスマルクが止めた。

「大体、世界征服にどんな理由が?やっている政策だって、人を虫けらのように扱うような愚策ばかり・・・」

唾棄するようにモニカがつぶやいた。その手はルルーシュの政策に関する資料が握りつぶされていた。

「大体、スザクは殿下・・・いや、ルルーシュとまともに話などした事はないんだろう?騎士であった頃も、相手にされてなかったと聞いている」

ジノはこんな状況でもまだ庇うのかと、スザクを睨みつけた。
あれだけルルーシュに色目をつかっておきながら、今は憎しみだけを向けるジノを、スザクもまた睨みつけた。

「スザク君の気持ちも解るわ。私もルルーシュとちゃんと話をしたいと思っている。でも、あちらはそれを望んでいないわ」
「それに、ナナリー様も人質」

アーニャの言葉に、全員が口を閉ざした。
あの日、皇位を失ったオデュッセウスは解放されたが、シャルルが次期皇帝にと名指ししたナナリーは、ルルーシュの手に囚われたままだった。

「どういう事か解る?私たちがナナリーを皇帝とし、正面から挑んでくるのを恐れているのよ。あの子の策をすべて無に返す可能性はまだあるの」

なるほど、と皆は頷いた。
ナナリーは世界を解放するための御旗となる存在だ。
だから、手放すのを恐れている。
そうでなければ、ナナリーも元皇族として船から下ろすか、その才能を利用するため、マリアンヌ達と合流させるはずだから。

「・・・付けいる隙はあるという事ですか」
「なければ、ここに貴方たちを集めていないわ」

ジェレミアの言葉に、マリアンヌは頷いた。

「いい?必ずあの子達を止める方法はある。だから、最後まで諦めないで。スザク君、話をしたいなら、あの子を・・・この暴走を止めるのが先よ」

暴走を止める。
それはルルーシュを捕縛してからという事。
囚われれば最後、ルルーシュは処刑あるいは生涯幽閉となるだろう。
その前に、話をという事だ。

「それでは遅いんです!だって、これは!!」
「スザク君、貴方が幼いころからルルーシュを特別扱いしているのは知っているわ。でも、その貴方の思いと世界を秤にかけないで」

冷たく放たれた言葉に、スザクは唇をかみ、俯いた。


ルルーシュの支配が始まってほんの2カ月ほどで、世界は恐ろしいほど疲弊していた。未来への希望や活気というものが失われ、モニターに映るルルーシュの姿を目にすれば、うらみがましく睨みつけていた。見目麗しい支配者に喜ぶ者もごく一部だが存在し、宗教のご神体のような扱いをする者さえ現れた。
だが世の大半は、自分たちの命を握られ、いつ誰かが馬鹿な事をしでかすのではないか。世界が明日滅びではないかという不安に押しつぶされていく。ルルーシュの死=世界の崩壊ということから、あと80年ともたないだろう世界に絶望し、生きる気力を無くした者たちで溢れていた。
今まで当たり前に来ていた明日という日、未来と呼べる日は、世界の終わりへのカウントダウンとなっている。そんな中で明るい未来を想像し、生きることなどできはしない。子供たちの将来ですら、真っ黒に塗りつぶされてしまった。
協会には、神の救いを求める人々が押し寄せ、至る所で暴動が起き、犯罪が急増し、秩序などもはや無いに等しかった。警察はそれでも治安維持のため動き続けたが、とても手が足りない。自暴自棄になり銃を乱射するものさえ出てきた。たった2ヶ月でこれなのだ。1年後の世界はどれほどの地獄か。
人々が絶望していた時に、奇跡は起きた。

それは、ルルーシュ皇帝が冷たい覇者の笑みを浮かべながら行っていた、演説が流れている時だった。

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